極東 > 韓国レポート:
Akihiro Komuro
小室 明大

韓国素材大手がEV向け電池材料の増産を急ぐ。ロッテケミカルは1600億円規模を投じて韓国や米国で電解液などの工場建設をめざす。LG化学やポスコも増産を表明した。韓国勢はLGなど電池大手3社が活発な投資計画を持つが、川上分野の電池材料については中国勢に後れを取っている。素材各社も供給能力を高めて中国に対抗する。

石油化学が主力のロッテケミカルは、自社プラント内に電解液用の有機溶媒工場を新設する。総投資額6020億ウォンで新棟を建てて2023年中の生産を目指す。米ルイジアナ州でも電解液や正極材関連の工場建設を検討する。2025年の生産開始を見越して自治体など関係先との調整を始めた。投資金額は1000億円規模となる見通しだ。

LG化学も電池材料に今後5年間で6兆ウォンを投じる計画を持つ。NCMA正極材を2025年までに量産する。ポスコとLGは上流の資源確保にも乗り出している。ポスコはアルゼンチンのリチウム塩湖の鉱山権益を取得し、LGはオーストラリアの資源会社と長期購買契約を結んだ。ニッケルやコバルト価格が高騰しており、EV普及拡大を見越した資源確保が必要になっているためだ。

EVの原価に占める電池の比率は3割に達する。さらに車載電池の原価構造を見ると、ポスコやLG化学が手掛ける正極材が58%を占める重要部材だ。

中国の電池材料メーカーは、CATLやBYDをけん引役として急成長しており、韓国や日本の電池メーカーとの取引も広げている。電池材料から電池、完成車というEVの一連のサプライチェーンが中国に集積されつつある。これに対し、韓国勢は車載電池では大手3社で約3分の1のシェアを占めるものの、電池材料では後れを取っているのが現状だ。

出典: 日経

PSR 分析: 完成車メーカーの電池の安定供給要請は日に日に強まっている。電池の材料となる鉱物資源は偏在していて、米中摩擦やロシアとウクライナの戦争など、国際情勢上のリスクが大きくなっているためだ。韓国は半導体と共に電池産業を国の基幹産業として育てていこうという意思があり、政府の強力なバックアップを背景に成長を続けている。GMやフォード、捨てランティスなどが韓国電池企業と相次いで合弁会社の設立をしたのは、電池の長期的かつ安定した供給を受けたいというメーカー側の意志の現れだ。

どの国でも自国の自動車産業は製造業の柱であり、今後世界がEVに突き進んでいく中、電池をどう作り、どう供給し、材料をどう調達するか、が極めてクリティカルな命題になっていくのは明らかだ。

日本は中国や韓国に量では差をつけられており、ここからの挽回は難しい。全固体電池や燃料電池に賭けているようにも見える。中国は内需が莫大であることから、自国のEV向けだけでも相当な数になるだろう。いわゆる自由主義陣営の欧州や北米の需要に向けて韓国の電池産業が担う役割は大きくなっていくだろう。PSR

小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト