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タイ政府は2022年からEVの普及に向けた新しい奨励制度を導入する。販売価格を引き下げるための補助金支給や、物品税と輸入関税の引き下げが柱となる。奨励制度を利用する自動車メーカーには、2024年以降にEVの現地生産を義務づける。

現地メディアの報道によると、補助金は車種やバッテリーの容量に応じて、1台当たり7万~15万バーツ(約25万~54万円)を支給する。購入にかかる物品税は現行の8%から2%に引き下げる。輸入関税はバッテリー容量と販売価格に応じて20~40%引き下げる。現在の最大関税率は80%だが、貿易協定により中国製は無関税である一方、日本製は20%が課されている。日本製も条件を満たせば無関税になる見通しだ。輸入車の現在の販売価格は中国の上海汽車集団や長城汽車のEVで約100万バーツ、日産自動車の「リーフ」のキャンペーン価格で約150万バーツと差が出ている。

東南アジア最大の自動車生産国であるタイは、2030年に国産車の3割をEVとする目標を掲げる。生産シェアの9割を占める日本車各社はガソリン車とハイブリッド車を製造している。中国勢もEVは中国から輸入しており、まだ現地生産していない。

出典: 日経

PSR 分析: タイ運輸省陸運局によると、2021年のEVの国内新規登録数(二輪車を除く、トラック・バスなどの商用車を含む)は約4万3,500台。前年比で41%増と、大幅に伸長した。内訳は、HEVとPHEVの合計が前年比約40%増の約4万1,400台、BEVが約50%増の約2,100台だった。

一方、2021年の新車販売台数(約76万台)に占めるEV全体のシェアは約6%、BEVのシェアは約0.3%だ。すなわち、国内販売に占めるEVの割合は現時点で高いとは言い難い。タイの市場にEVが広く流通するには、しばらく時間を要する見込みだ。

現時点で内燃機関車が圧倒的なシェアを占めているわけだが、政府による環境規制強化の動きがEV普及を後押しする可能性がある。例えば、工業省は国内の自動車メーカーと販売業者に対し、2021年までに欧州排出ガス規制「ユーロ5」に適合する自動車を生産・販売するとの方針を示した。HEVとPHEVに関しては、さらに厳しい「ユーロ6」への適合が求められる。このような規制導入の背景には、大気汚染問題がある。

車種別の主なEV振興策は、次のとおりだ。

小売価格200万バーツ未満の乗用車:国内生産を条件として、(1)2022年から2023年に完成車や関連する部品に対する輸入関税を最大40%引き下げ、(2)対象となる車両の物品税率を8%から2%に引き下げ、(3)最大で15万バーツの補助金を交付。

ピックアップトラック:国内の生産者だけを対象に、(1)物品税率を10%から0%まで引き下げ、(2)最大で15万バーツの補助金を交付する。

二輪車:15万バーツ以下の二輪車に対し、最大で1万8,000バーツの補助金を交付する。

これらの振興策を通じて、タイは2030年にEVの国内生産割合を30%にする目標の達成に向け、全力で取り組む方針だ。既述のEV促進策に先行して、タイ投資委員会(BOI)は2021年1月、EV生産投資にかかる新たな恩典を公表した具体的には、投資額が50億バーツ以上かつ自社またはサプライヤーがバッテリーなど4つの重要部品を製造する場合は、BEV製造に係る法人所得税を8年間免除する。PHEV製造の場合は、法人所得税を3年間免除する。BOIは、その後もEV関連の恩典を充実させる意向を示している。

外資誘致の税制優遇、EVへの補助金、環境規制の強化など、全方位的にタイ政府はEV強国を目指して突き進んでいる。PSR

小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト