極東 > 日本レポート
Akihiro Komuro
小室 明大

日本[KA1] 財団、三菱重工グループの三菱造船株式会社、新日本海フェリー株式会社は、1月に北九州市新門司から伊予灘で実施した大型カーフェリーによる世界初の完全自律型船舶航行システムの実証実験に成功した。

この実証実験は、日本財団が2020年2月に立ち上げた完全自律型船舶航行プロジェクト「MEGURI2040」の一環として行われたものだ。

日本では、少子高齢化、人口減少が進んでおり、あらゆる分野で人手不足が進んでいる。船上でのハードな仕事を要求される内航海運の船員もその例外ではない。内航海運の船員の半分以上が50歳以上であり、大きな課題となっている。

また、日本には約400の有人離島があるが、朝夕の1日2便のみ航路が多数あり、生活航路として便数不足であるなど、離島航路の維持も喫緊の課題となっている。さらに、海難事故の原因の約7割から8割がヒューマンエラーといわれており、事故減少が求められている。無人運航船はこうした社会課題の解決策の一つになると考えられる。

現在、自動車の分野を中心に無人運転の実証実験が進められているが、海運については、船陸間の通信環境整備や障害物を瞬時に避けることが難しいなどの技術面、開発への莫大な資金が必要などの経済面から、これまで無人運航船の開発はほとんど行われてこなかった。

一方で日本は、IoT、AIや画像解析技術をはじめ、世界的に高い技術を保持していることから、これらの技術を持つ複数の民間企業が共同で技術開発を行うことで、無人運航船にかかる技術開発を飛躍的に進められる可能性がある。

MEGURI2040内には5つのコンソーシアムがあり、それぞれが新しい装備やシステム、仕組みを開発している。以下にその5つを説明する。

1.無人運航船の未来創造~多様な専門家で描くグランド・デザイン~

コンテナ船を対象として、無人運航システムを国内30社以上が集結して開発。オープンイノベーション体制で開発を進め、社会実装を目指す。緊急時には陸上から操船を可能とする陸上支援センターを千葉県の幕張に構築している。

2.内航コンテナ船とカーフェリーに拠る無人化技術実証実験

コンテナ船とフェリーを対象として、無人運航システムの開発を進めている。フェリーでは離着桟機能を含め、港内自律操船機能の実証実験に成功している。また、コンテナ船ではドローンを用いた係船支援の開発も行っている。

3.水陸両用無人運転技術の開発~八ッ場スマートモビリティ~

群馬県・八ッ場あがつま湖で、水陸両用船を対象として、無人運航するシステムの開発を進めている。自動車の自動運転技術を拡張し、水上での無人運航をできるようにしている。また、通信にはローカル5Gを用いて、陸上での監視・運転システムの開発も行っている。

4.無人運航船@横須賀市猿島

横須賀の猿島にわたる小型観光船に無人運航を実現するシステムを搭載。3台のカメラから他の船を検出し、自動で他船をさけるシステムの開発などを進めている。

5.スマートフェリーの開発

新門司〜横須賀間を運航するフェリーを対象として、無人運航を実現するシステムを搭載した新造船を建造、開発を進めている。

7月1日よりフェリーの有人での運航を開始し、無人運航のためのデータの蓄積を進めている。

出典: 日本財団

PSR 分析: 船舶業界にも技術革新が求められているなか、日本財団のこの取り組みが目立つ。無人での船舶運航が可能となれば人件費を削減することのみならず、深刻な人材不足の低減にもつながる可能性があるため、そこに需要があることは明白であり、開発の進捗が期待されている。

船舶の電動化はまだまだ夢物語の段階だ。バッテリー自体が重く、小さなバッテリー船のカタログ値では駆動時間5時間でも実際の駆動時間は2時間が精いっぱいという状況で、バッテリー自体の性能向上が必要だ。バッテリー船はすでに市場にも存在するが、まだまだ成熟していない。市場の実用には最低でもあと5~10年かかる。新燃料関連では商船分野を中心に、LNGとディーゼルのDUAL FUELや、アンモニアを燃料に活用することでCO2削減をしようという動きが目立つ。

今回ここで紹介したMEGURI2040はそれらの電動化や新燃料とはテーマが異なり、小規模フェリーや小型内航運搬船の無人化を目的としたものだ。だが、無人化の一連の技術が成熟すれば多くの船舶への技術転用が期待できることから、ビジネスとして将来的に成立するポテンシャルは高いと筆者は考えている。もちろん様々な課題は現時点であるだろう。その中で最も大きいのは、安全性の担保、ということになるだろう。事故やトラブルが発生した時の対応ノウハウの確立は必須だ。陸上とは異なり、船は洋上でトラブルが発生してもすぐに助けは来ない。基本的に船内ですべてを賄う必要があるが、船が無人の場合はどうすればよいのか。イレギュラーな事象への対応をどうするか、がキーポイントになるだろう。PSR

小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト