Akihiro Komuro
小室 明大

外航船の燃費性能を格付けする国際的な新制度が、日本主導で創設されることが明らかになった。国際会議で6月に関連条約の改正案が採択され、2023年に導入される方向だ。

燃費の格付け制度は、コンテナ船、石油タンカー、クルーズ船など大型外航船が対象となる。毎年1回、船の所有者や運航会社が、船籍を置く政府に燃費データを提出し、5段階(A-E)で評価する。運航距離と船の重さ、燃料消費量からCO2の排出量を換算して比較する。最低のE、もしくは3回連続でDになると、所有者は船籍のある政府に改善計画を提出する必要がある。燃費を改善する装置を追加したり、航行速度を抑えたりすることが求められる。改善できなければ航行できなくなる。

日本政府は昨年、既存船の格付け制度を、中国や韓国、ドイツなどと19か国で、国際海事機関(IMO)の委員会に共同提案した。

燃費が悪い船の退役を促し、環境性能の高い船を増やすのが狙いだ。2030年までに船の燃費を2008年比で平均40%以上改善し、2050年までにCO2排出量の半減を目指す。

出典: 読売

PSR 分析: 海運業界の環境規制はバラスト水による水質悪化対策などを筆頭にこれまでも積極的に取り組まれてきたが、CO2対策の分野でも本格化する見通しとなった。

現在、商船建造においては中国が世界一の建造隻数を誇り、次いで韓国がLNG船やオフショア船の建造を強みに世界2位の位置を占め、日本は世界3位というパワーバランスとなっている。そしてこの3国で世界の9割以上を占めている。過去10年以上にわたり、世界は需要に対して供給過剰な状態が続いている結果、市場が縮小し、造船ビジネスは苦境に立たされている。

造船業は資本力が大きく影響するビジネスであり、中国は政府の強力な後押しを背景に強さを増し、韓国は現代・Samsung・大宇の3社を中心に、強固な事業規模を持っている。日本の造船業は中韓勢に押されており、大手造船会社の合併をはじめとする業界再編で対抗しようとしてきたが、上位2国との差は拡大しつつある。

「この新制度は、低迷する日本の造船業にとってはプラスになる。日本の造船は高性能に強みがあるからだ」と論じられているが、筆者はこの意見には同意しない。実態として、中韓勢と比較しても日本が持っている技術的なアドバンテージはさほど大きくはない。仮にもし現時点で日本の技術が中韓より優位であったとしても、中韓が追い付くまでに長い時間はかからないだろう。

制度の詳細はまだこれから詰められることになり、誰が燃費を証明するのか、虚偽申請にどのような罰則を行使するのか、造船時のイニシャルコストをどう負担するか、など、制度発効までの課題は多い。

最近は、環境全般のグリーンエコノミーに加えて、海洋の環境保全とビジネスを両立させるブルーエコノミーが話題になり始めている。欧米でこのブルーエコノミーの研究が始まったばかりのなか、海洋国家である日本としてはリーダーシップを取りたい。

新造船建造時のCO2排出量も近い将来課題化することもあるのかもしれず、それを考慮すると、新造船を建造するのと既存の船を運行させるのとどちらが環境に良いか、という視座も出てくるだろう。いずれにしろ、海運造船共に現状のままでいることは許されず、環境への配慮を求められる傾向は強まっていく。問題はそのコストを誰がどのように負担して、持続可能な産業として維持していくか、だ。PSR

小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト