Akihiro Komuro
小室 明大

マレーシアの国民車メーカー、プロトンの販売が絶好調だ。2月の同国内での市場シェアは27.3%に達し、もう一つの国民車メーカーであるプロドゥアの38.8%を猛追する。単月の不規則現象ではない。2020年通年は20.5%。過去最低を記録した18年の10.8%を底に、わずか2年でほぼ倍増した。シェアの2割台回復は7年ぶりのことだ。

反転攻勢の転換点は中国メーカーとの資本・業務提携だった。17年9月に吉利汽車の親会社から49.9%の出資を受け入れると、中国で生産・販売するSUVの右ハンドル版「X70」を18年末に輸入開始。これがヒットするや、19年末にマレーシアでの国内組み立てに切り替え、20年9月には小型のSUV「X50」を追加投入した。

小型乗用車が売れ筋のマレーシアでも、近年はSUV人気が高まる。日本車が強い分野だったが、吉利本体と合わせた量産効果や、国民車に与えられる物品税優遇をフルに生かし、プロトンは4割程度安い価格で攻め込んだ。

自動車業界の大変革期にあって、プロトンが外資の後ろ盾なしに将来も存続できる可能性はなかった。そのとき、活路を見いだすルックイーストの視線が、かつての日韓ではなく中国に行き着き、結果として日本車のシェアを切り崩している現実が、アジアの産業勢力図の変化を如実に映し出している。

秋波に応えた吉利は、人口3200万人、年60万台のマレーシアの成熟市場だけを狙っているのではない。自らの資金力や開発力、マーケティング力をつぎ込み、プロトンを東南アジア市場への輸出拠点と位置づける。だが、まもなく先進国入りする人件費高のマレーシアが、その任に適しているかはわからない。

「マレーシア+中国」の企業連合が、タイ、インドネシアを筆頭に日本車がシェア8割を握る域内の市場地図に変化を引き起こすことができたとき、アジアの自動車産業のパワーバランスが決定的に変わるのだけは確かだ。

出典: 日経

PSR 分析: マレーシアは東南アジアの中でも、最も早く国産自動車に取り組んだ国であり、自国ブランドへの熱意は強い。1985年の創立以来、三菱をはじめVWやGMなど、多くの他国OEMとの関係を経て、現在はGeelyとのパートナーシップを得て、息を吹き返しつつある。自国愛が強い東南アジアで、先駆者であるプロトンが再び成功することは、プロトンのみならずベトナムのVINFASTを筆頭に、多くの東南アジアブランドに勇気を与えるだろう。他のOEMとの協業について、成功・失敗両面で豊富な経験を持っているプロトンが、今後Geelyとどのように協力関係を深めていくのかは重大な関心事だ。

COVIDや米中貿易摩擦などの外的要因から来る短期的なアップダウンは今後も避けられないが、長期的にはマレーシアの四輪市場は拡大していく。すでに充分に成熟した自動車産業を持つタイやインドネシアと比較すると、マレーシアはまだ多くの余地があり、これから発展する段階にある。内需は大きく、購入意欲も旺盛で、現在は日本車がかなり高いシェアを占めている。激変する市場環境は、現時点で大きなシェアを持たないブランドであっても数年後に大きなシェアを獲得するチャンスがあるということでもある。

中国の東南アジア進出については現地でも賛否両論がある。過去の歴史を見ると、マレーシアにおいては親中・反中それぞれの感情が強く渦を巻いている。だが、東南アジアもまだまだ官民ともに他国の援助を必要としていることも事実だ。東南アジアで自動車ブランドが激しい市場競争を勝ち抜くためには、他国ブランドとの協業を今後も模索していく傾向が強まるだろう。プロトンの現在はその好例と言える。PSR

小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト