水素を2030年に主要燃料に 目標1000万トン、国内電力1割分

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Akihiro Komuro
小室明大

政府は国内での水素利用量を2030年時点で1000万トン規模とする目標を設ける調整に入った。1000万トンで原子力発電所30基以上を稼働できる。稼働率を考慮しない単純計算で国内全体の設備容量の1割強にあたる。水素発電の実用化を急ぎ、FCVの普及も加速させる。新設する2兆円の基金を活用したり設備投資への税優遇などで支援する。

民間も動き出した。トヨタ自動車や岩谷産業など88社は12月7日、水素インフラの整備を進める「水素バリューチェーン推進協議会」を立ち上げたと発表した。

トヨタ  2020年12月中に航続距離を伸ばしたFCV新型ミライを発売予定
岩谷産業船舶や鉄道、発電などの水素需要を拡大し、コスト削減に取り組む
三井物産ブルネイで調達した水素を日本へ運ぶ実証実験に参画予定
関西電力火力発電の水素混入の導入可能性を調査
東芝福島県浪江町での世界最大級の水素製造拠点の実証実験に参画
エネオス水素ステーションを全国で44ヶ所に展開中。今後も拡大していく計画
川崎重工業2030年にも大型の水素運搬船の商用化を目指している
三菱重工業水素を燃料にして二酸化炭素の排出量を減らす火力発電設備の開発を進める
神戸製鋼所液化水素を運搬し貯蔵するのに必要な圧縮機などを手掛けている

水素では量産型FCV「ミライ」を発売したトヨタが民間の主導役を果たしてきた。ミライは9月までの世界販売が1万千台にとどまっている。2019年度の日本でのFCV販売はトヨタを含め約700台でEVの約2万台と比べると小さい。打開策として水素のフル充塡での航続距離を現在の約650キロメートルから約3割伸ばした新型ミライを12月中に発売する予定だ。

協議会は自動車以外でも水素の利用を促進していく。製鉄では鉄鉱石の還元を石炭由来から水素に切り替える。日本製鉄など高炉大手は2050年までに水素を使ってCO2排出を減らす技術の実用化を目指す。東京電力と中部電力が折半出資するJERAも発電燃料を水素に変え2050年にCO2排出量を実質ゼロにする。

一方でこうした水素を使った発電や製鉄の実現には大量の水素エネルギーを安く調達する必要がある。川崎重工業や岩谷産業、丸紅などは2018年からオーストラリアで「褐炭」と呼ばれる低品位炭から水素を製造、液化し、日本に船で運び、発電などに使う輸送する実証事業を始めている。2021年までに最初の水素製造・輸送試験を行う計画だ。岩谷産業や関西電力なども2025年に向けて水素で動く船の実用化を検討する。燃料電池を搭載し、水素と空気中の酸素を反応させてつくった電気で動かす。

Source: The Nikkei

PSR 分析: 大きな潮流として、日本は水素を次世代のエネルギーにすることを本気で検討している。目標年を具体的に示したことで取り組みはさらに加速するだろう。その一方で、水素に否定的な意見が多く存在することも事実だ。否定の根拠は多岐にわたるが、安全性と環境性によるものが多い。

安全性については「水素は爆発しやすく、非常に危険で恐ろしいもの」という認識がある。肯定派はこの意見に対して「確かに水素は爆発しやすく着火性が高い。だが、拡散が速く、万が一漏れてもすぐに薄まるため、着火しにくい。バーナーのようにガスの吹き出し口付近だけが燃えるイメージで、ボンベの内部まで引火したり爆発したりする可能性は低い。

もちろん水素は、完全に安全というものではない。しかし、身近な存在であるガソリンも、扱うための国家資格があるように、相応の危険性はある。安全性を担保するための対策の法整備も進められている。水素ステーションを例にとると、立地の規制をはじめ、貯蔵設備の材料から、水素の充てん方法に至るまで、多岐にわたる規制が各種の法律で設けられている。こうした安全対策のために水素ステーションの建設・運営コストが膨れ上がり、政府が想定したほど設置が進んでいない。経済産業省は国土交通省や消防庁と共同で水素ステーションの規制を継続的に見直している。家庭用の燃料電池に関しては、すでに規制の緩和が進んでいる。一般社会が水素の安全性を誤解無く正しく理解するための啓蒙が必要なフェーズに来ている。」と反論する。

否定派のもうひとつの主張は「水素は、本当はクリーンではない」というものだ。これについては一部正しい。現在、一般に流通する水素は原油や天然ガスから作られていて、原料から水素を作るときにCO2を排出する。天然ガスや原油、石炭などに含まれる炭化水素から水素を作る方法は、元の物質に炭素が含まれるためCO2が発生する。他には、水を電気分解する方法がある。風力などの再生可能エネルギーから電力を作る方法もある。これらを用いれば、CO2を排出しないカーボンフリーな燃料が実現するというアイディアがある。だが風力や太陽光などの自然の力を使って発電する再生可能エネルギーは、計画通りに狙って発電することができず、電力供給が不安定になる。そこで自然エネルギーをいったん水素にして貯蔵・輸送し、その水素を発電や燃料などに使おうという考え方が欧州を中心に広まっている。だがこの考え方も現時点ではコンセプトのレベルに留まっている。

筆者は水素のエネルギー利用について肯定派、否定派、どちらに立つものでもない。ただ重要なのは、水素、石油、バッテリーの覇権争いではないという認識だ。エネルギーミックスという考えで、石油もガスも水素も、それぞれに最適な利用方法がある。モビリティ分野においては現時点ではEVが大きくリードしているが、EVそのものにもリチウムイオンバッテリーの最終処分の問題はある。水素をエネルギーとして利用する研究は、日本のみならず欧米や中国でも行われているが、その成熟度と進捗においては日本が一歩リードしているといってよい。あと10年での達成はかなり高い目標で、官民が協力して進めていくことが肝要だ。モビリティ分野においてFCVが広まるためには、上流工程、つまりインフラや発電所での水素利用や水素ステーションの普及が優先されるべきで、それぞれの局面で商売として儲かる状況になってはじめてFCVの台数は増える。あと10年で日本がそのレベルを達成できるか、大きなチャレンジになるだろう。PSR

小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト


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